NHK紅白歌合戦の「演出過多」は今に始まったことではないが、昨年末の紅白は特に、凝った演出が印象に残った。舞台セット転換に時間がかかり、司会が間を持たせるのに苦労したことも、視聴者に「演出」を意識させるきっかけとなったのではないか。とはいえ、資金と人材に恵まれたNHKだからこそ提供できるゴージャスな一夜の夢舞台であることも間違いない。盛りだくさんの演出は、視聴者を喜ばせるのか。それとも疲れさせるのか。(フリーライター 鎌田和歌)
綾瀬はるかが何度も起用されるのはなぜ?
紅白の司会に求められること
生放送での沈黙の時間は、見る者に不安を抱かせる。2025年末のNHK紅白歌合戦は、その意味でハラハラする場面が何度もあった。
曲紹介後に司会の4人(有吉弘行、綾瀬はるか、今田美桜、鈴木奈穂子アナウンサー)がカメラの前で固まり、スムーズに歌唱につながらない展開が複数回あったのだ。
このような場面はこれまでの紅白でも見られたが、今回は特に多く感じられた。舞台セット転換に時間がかかったためではないかと分析されたり、昨年まで司会を務めた橋本環奈は場つなぎがうまかったと再評価する声が聞かれた。
素人目にも紅白の司会は卓越した機転が求められるのがわかる。だからこそ「天然キャラ」で愛される綾瀬はるかが何度も起用され、多少のミスは愛嬌と許されるところまでがお約束になっているのだろうし、度胸があって機転も効く橋本環奈が昨年まで3年連続で起用されたのだろう。
リハーサルがあるとはいえ、長時間にわたる生放送を仕切るのは並大抵なことではなく、司会に多少のもたつきがあったところで責める気にはなれない。個人的には、今田美桜の司会は品があり、華やかな舞台に清涼感をもたらしていたと感じる。
気になったのは、演出の多さだ。豪華な舞台セットや、ときとして他の出演者をバックダンサーに従える構成、スタジオメインでありながら、特別なゲストを中継(あるいは録画映像)で見せるなど、その演出は年々、巧みになっていくように思える。
熟練のスタッフとそれを支える資金力があるNHKならではであり、この演出を見るのが紅白の楽しみでもあるのだが、その比重が年々増してはいないか。
印象に残った演出、ネットで話題になっている演出をいくつか挙げてみたい。
また今年もか…
でもないとさみしい「チャレンジ」
・もはや「伝統芸」のけん玉、ドミノ倒し
三山ひろしとけん玉ギネスチャレンジ、水森かおりとドミノチャレンジはもはや定番となった。ギネスに挑むけん玉の緊張感は紅白の他の場面にはないものであり、つい固唾を飲んで見守ってしまう。また、ドミノチャレンジはその年の話題や司会にちなんだトピックが盛り込まれており、ただのドミノで終わらせない仕掛けがある。
毎回「今回もまたやるのか」と思わされるのだが、なかったらなかったできっとさみしさや一抹の物足りなさを感じるのであろうから、もはや伝統芸の域である。
・演歌のバックダンサーがアイドル
これも定番の演出となった。演歌が流れる時間帯であっても若者層を画面の前に座らせておく仕掛けであることは誰の目にも明らかだ。
歌い手に失礼、曲に合っていないなどと一時期は批判されることもあったこの演出だが、今回でいえば、坂本冬美が歌う「夜桜お七」と、男性アイドルグループ「M!LK」のコラボは、歌の世界観とグループのビジュアルがうまくマッチしていて見応えがあった。これはコラボが成功したケースと言えるのだろう。
天童よしみは「あんたの花道~ミャクミャクダンスSP~」と、大阪万博で話題になったあのキャラクターとともに登場した。
また、トップバッターとしてカラフルな衣装で登場しインパクトのあったCANDY TUNEと、FRUITS ZIPPERも一緒に踊った。番組の初番で登場するアイドルグループは曲を短めに編集されていることが多いため、このように「再出演」の機会があるのはファンにとっても喜ばしいのではないか。
郷ひろみのエネルギッシュな舞台に
中高年は元気づけられる
・活動休止・紅白引退前の演出
Perfumeと郷ひろみは、どちらも紅白歌合戦と相思相愛と言っていいほど、長年にわたって出演し続けたアーティストである。
Perfumeは今年で「コールドスリープ」、郷ひろみは紅白の引退を発表していた。それぞれ一区切りとなる節目として、NHK側も工夫を凝らしたのではないか。
郷ひろみは、広い世代に聞き馴染みのある「2億4千万の瞳ーエキゾチック・ジャパンー」を会場や他の出演者と一体になって歌った。本人らしいサービス精神にあふれた舞台だった。70歳という年齢を感じさせない歌唱、踊り、走りに元気づけられた中高年は多いのではないか。筆者もその一人である。
PerfumeはNHKとも縁の深い代表曲「ポリリズム」と、今年の新曲「巡ループ」を披露。「巡ループ」では、背後にデビューからこれまでのパフォーマンスが映像で流れ、ラストは光とともに3人が舞台から消えた。人の世に夢を与えて去る妖精を思わせるような演出だった。
・当代一の人気者・ミセス大森の酷使
オープニングの「放送100年 紅白スペシャルメドレー」のトップバッターからしてMrs. GREEN APPLEだった。冒頭の「夢で会いましょう」で大森元貴が美声を響かせ、後半すぐの特別企画でも「見上げてごらん夜の星を」を独唱。
そして大トリを飾ったのもMrs. GREEN APPLEだ。序盤、中盤、終盤すべての要所を担ったのがミセス大森であり、前日には3年連続レコード大賞受賞というその安定した人気ぶりを改めて実感する紅白となった。人気と実力を兼ね備えているアーティストだからこその起用だろう。
・乃木坂46が悪いわけではない「ナンバー」演出
残念な結果になってしまったのが、乃木坂46が「Same Numbers」を歌った際の演出だ。パフォーマンスの中で示される数字を視聴者がリモコンボタンで押し、それが200万ポイントを超えるとスペシャル演出を見ることができる、というものだった。
大トリの後の特別出演で
松田聖子が熱唱
しかしこの時間帯に視聴率が目立って下がってしまったのだという。筆者は曲前の司会の説明で、リモコン操作の指示がよくわからなかった一人である。
そのため、リモコン操作の指示がわからずに誤操作してしまった視聴者が多かったのかと考えたのだが、メディアコンサルタント・境治氏の記事「紅白の視聴率が数分間下がった!分析して見えた意外な理由」によれば、視聴者が単に間違えたというよりも、ポイントの目標達成後に「dボタン」でチャンネルロック解除を押し、そこまでは良かったものの、その後にまた「8」という数字が出てきてしまったために、8チャンネルに映ってしまった人が多かったらしい。
つまり、リモコン操作を理解していた人たちが、指示を律儀に守ったための誤操作だったということのようだ。
数秒、数分であっても視聴率の急落はテレビマンからしたら最悪の事態であろうから、NHKとしては失態だろう。「スペシャル演出」も、どこからがスペシャルなのかが若干わかりづらく印象に残りづらかったのが気になった。ただ当然のことながら、アーティストの責任ではない。
・大トリ後に登場した松田聖子の声量
大トリがMrs. GREEN APPLEと発表された後で、さらにその後に松田聖子が特別出演するという発表には賛否両論があったという。大トリとはなんぞや、そもそも特別枠が多すぎないかという話にもなるから当然といえば当然である。
松田聖子は2021年に紅白出演を辞退してからこれまで出演がなく、本人もNHKも思い入れのある「復帰」だっただろう。視聴者からしても、辞退に至った背景を考えれば応援したい気持ちの人も多かったはずである。
久しぶりの出演となる復帰舞台で、視聴者の少しの不安を吹き飛ばしたのが、その声量だろう。伸びやかな声と熟練の歌唱力で、「若い頃よりもうまい」という感想も見られた。大トリの後という曲順が正解だったのかはわからないが、とにかく松田聖子という歌手の人生を感じた舞台だった。
レコ大新人賞のガールズグループが
プロデュースした“本物の”パフォーマンス
・ちゃんみなの賛否両論は想定内?
SNS上で賛否両論となったのが、ちゃんみなのパフォーマンス。「NG」を歌うちゃんみなを男性ダンサー4人が抱き抱えて階段を降りてくる場面があったのだが、その衣装が大変大胆なものであったことや、開脚に近いポーズであったことから「ちゃんみな衣装ヤバい」といった声が相次いだ。
おじいちゃんから子どもまで、家族揃って見ていた人にとって気まずいシーンであったことは容易に想像できる。ただ、多種多様な方面からクレームがつけられやすい紅白歌合戦にあって、NHK関係者がこのパフォーマンスへの賛否を想定していなかったとは考えにくい。必然のパフォーマンスであったのだろう。
新年が明けてから、俳優の安田顕がちゃんみなの紅白でのパフォーマンスを「本物を見た。あれが表現者かと」と絶賛したことなど、好意的な報道が流れている。プロデュースしたガールズグループ・HANAはレコード大賞新人賞を受賞したが、今年も快進撃が続きそうだ。
・2回登場した福山雅治
2020年から2024年までトリを飾った福山雅治は、今年はトリの座を譲り、その代わりなのかB'zの稲葉浩志との特別企画と合わせて2回登場した。
コラムニストの堀井憲一郎氏の記事「9分以上の歌唱者も出た2025年紅白歌合戦 NHKがもっとも大事にしたのはどの歌手だったのか」によれば、2回の歌唱を合わせた歌唱時間は9分35秒となり、出場した歌手の中で最も長かった。このことから堀井氏は「もっとも大切にされていたのは福山雅治」と分析されている。
福山雅治といえば、大きな話題にはならなかったが、昨年「フジテレビ問題」に関連して「不適切会合」が報道された。これがあってのトリ外しなのか、トリから外れたものの事務所への配慮から2回出演させたのか……などと勘繰ってしまうが、推測の範囲を出ないため控えたい。
都内某所からサプライズ登場して
一番長く歌った矢沢永吉
・矢沢永吉がNHKホールご登場で9分超えの歌唱
前述の堀井氏の記事の中で、連続(単独)で9分超え歌唱をしたのは矢沢永吉のみだったとある。その次が5分46秒のMISIA(紅組のトリ)というので、矢沢がどれだけ長く歌唱したかがわかる。
「都内某所」からの映像出演で「真実」を歌った後、サプライズでNHKホールに登場。「止まらないHa~Ha~」と「トラベリン・バス」を続けて披露した。
サプライズ登場は昨年のB'z(朝ドラ主題歌を歌った後、NHKホールに登場して代表曲「LOVE PHANTOM」「ultra soul」を熱唱)が好評だったことから、今年も、となったのかもしれない。また、昨年のサプライズがあったことから、「今回もスタジオご登場があるのでは」と予想していた人もいたようだ。
うれしいサプライズは何度あっても盛り上がるもので、紅白のサプライズは何度でも見たいと感じた。
矢沢はライブが終わると直帰することでも有名だが、この日も出演からわずか17分後には自宅に帰っていたことが報道されている。
2025年の紅白歌合戦で印象に残ったパフォーマンスを振り返ってみると、問われたのは、その演出が視聴者とどう共有されたかだろう。歌を引き立てる装置として機能した場面もあれば、仕掛けそのものが主役になってしまった瞬間もあった。
ただ、残念ながら失敗してしまったと感じられる演出や舞台転換も含めて、長時間の生放送ならではの臨場感を楽しむことができたのも事実だ。
紅白はただ音楽を味わう番組ではなく、SNSでの賛否を含めどう語られ、どう消費されるかを確認するまでが紅白、という年末の巨大イベントなのだろう。
歌だけが主役でなくなった紅白はアリかナシかで言えば、現時点でおおいにアリだと筆者は考える。個々の推しが多種多様である時代において、エンタメ情報の共通解がここに集約されている。
2026-01-10T22:31:23Z